日本では国民皆保険のもと、国民全員が保険に入れる仕組みになっています。
そのため私たちが病気やケガで医療費を支払う場合、窓口での負担額は原則3割になります。
しかし、重い病気やケガで医療費が高額になった場合はどうでしょうか。
たとえ3割負担でも、医療費が150万円なら負担額は45万円と高額になり、その負担が重くのしかかります。
そのようなときに活用できるのが
「高額療養制度」です。
この高額療養制度を使うことで、誰でも医療費を安く抑えることができます。
今回は、この高額療養制度の基本から申請方法などを詳しく解説します。
もくじ
高額療養費制度には2つの申請方法がある
高額療養費制度の支給申請手続きには2つの方法があります。
1つ目は
❶事後に手続きをする場合
(高額療養費申請)
2つ目は
❷事前に手続きをする場合
(限度額適用認定証)
❶と❷の違いは、高額療養費制度をいつ申請するかにあります。
❶の事後に手続きをする場合は、まず医療機関の窓口で3割負担の医療費を支払います。
そのあとに高額療養費の支給申請を行い、後日高額療養費が支給される仕組みです。
一方、❷の事前に手続きする場合は、まず始めに申請を行い、限度額適用認定証を取得します。
その後、医療機関の窓口で、取得した限度額認定証を提示することにより医療費の支払いが自己負担限度額に減額されます。
それでは、➊と➋の手続きをそれぞれ比較してみます。
例)69歳以下で年収350万円の方が、総医療費100万の治療を行った場合
・自己負担限度額5万7600円(約6万円)

❶と❷どちらの場合でも最終的に支払う医療費は同じ額になります。
今回は、この高額療養制度のうち❶事後に手続きをする場合を解説します。
❷事前に手続きする場合(限度額認定証)については、下の記事をご覧ください。

高額療養費制度とは?
先ほど簡単に説明しましたが
❶事後に手続きをする場合の『高額療養費制度』とは
医療機関などの窓口で支払った医療費が、
ひと月(月の初めから終わりまで)の自己負担限度額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。
つまり、どんなに医療費が高額になっても最終的に自分で負担するのは、
高額療養制度で定められた自己負担限度額までとなります。
たとえば
69歳以下で年収300万円の方が医療機関の窓口で医療費を30万(100万円の3割負担)を支払った場合
69歳以下で年収300万円の方の自己負担限度額は、5万7600円と定めてあります。
そのため医療機関の窓口で支払いをした医療費30万との差額24万2400円が高額療養費として払い戻されることになります。

このように高額療養費制度は、医療費の自己負担を軽減してくれるとても心強い制度です。
自己負担額ってどのくらい?
自己負担額を超える医療費が、払い戻されることは分かりました。
では、みなさんが負担する自己負担額は、いくらぐらいになるのでしょうか。
高額療養費制度では、年齢と収入に応じて負担する額(自己負担額)が決まっています。
次の表をご覧になって、自分がどの区分に属するのか、限度額はいくらかになるのかをあらかじめ認識しておくと良いでしょう。


高額療養費制度の対象とならないもの
高額療養費制度では、医療機関の窓口で支払った金額の全額が高額療養費の支給対象となるわけではありません。
対象となるのは、保険適用される診療に対して患者が支払った自己負担額が対象となります。
つまり、食事代や保険適用外の負担分は高額療養制度の対象にならないため注意が必要です。

高額療養制度の申請方法
次に、高額療養制度を利用した場合の申請方法について説明します。
高額療養費制度では申請をすることにより医療機関窓口で負担した医療費のうち、自己負担額を超えた金額が払戻しされます。
では、申請とは具体的にどういう手続きを行えばよいのでしょうか。
どこに申請すればいい?
まず高額療養費についての申請窓口は、
どの医療保険制度に加入しているかで変わります。
まずは、お持ちの保険証で保険者の名前を確認してください。
※「保険者」とは健康保険事業の運営主体のことで保険証を交付している者です。
●保険証に「市区町村名」が書かれている
記載されている市区町村の役所・役場に対して申請を行います。
●保険証に「全国健康保険協会」、「健康保険組合」と書かれている
記載されている保険者に対して申請を行います。
市区町村への申請
(東京都港区の場合)
自己負担限度額を超えていた月の3~4か月後に区から該当する世帯に申請書が郵送されてきます。その申請書に必要書類を添付して郵送で提出します。一度申請すると2回目以降の申請は原則不要で診療月のおおよそ4か月後に高額療養費が支給されます。
詳しくは保険証に記載れている市区町村のHPをご覧ください。
全国健康保険協会・健康保険組合への申請
(協会けんぽの場合)
ある月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、健康保険証に記載されている協会けんぽの支部に「高額療養費支給申請書」を提出します。その後、保険医療機関等から提出される診療報酬明細書の確認が必要になるため高額療養費の支給は、診療月から3ヵ月以上かかります。
詳しくは加入している公的医療保険のHPをご覧ください。
必要になるもの
次に高額療養費の申請で必要なものを紹介します。
必要なものは、その内容や保険者によっても異なりますが、基本的に以下の書類が必要になります。
●保険証
●印かん
●領収書
●振込口座の分かるもの
申請する前に、これらを準備しておくと手続きをスムーズに進めることができます。
医療費が高額すぎて払えないときに使える制度
高額療養費制度を利用すると高額になった医療費を安く抑えることができます。
しかし、いくら高額療養費制度を利用したとしても医療費が高額で支払いが難しい場合があります。
そのようなときに、知っておきたいのが「高額療養費貸付制度」と「高額療養委任払い制度」です。
※加入している公的医療保険によって多少内容が異なります。
高額療養費貸付制度
高額療養費制度では、医療機関の窓口で医療費の支払いをしてから、払い戻しされるまでには、2~3カ月かかります。
そのため、その間の支払いに困った場合をフォローするのが高額療養費貸付制度です。
高額療養貸付制度では高額療養費が払い戻されるまで、その払い戻される金額の8割に相当する額を無利子で借りることができます。
高額療養費委任払い制度
高額療養費申請では、まず医療機関窓口で3割負担に相当する医療費の支払いを行ってから高額療養費の申請をします。
そのため医療費が高額な場合、窓口での支払いが困難になる場合もあります。
高額療養委任払い制度では窓口での支払いが困難な場合、高額療養費制度の自己負担限度額を超えた部分を保険者から医療機関へ直接支払います。
つまり患者個人が病院の窓口で負担する金額は、高額療養費制度の自己負担限度額に留まることになります。
ただし、利用できる人は医療費が高額なため生活を維持しつつ医療機関へ医療費を支払うことが困難な人です。
支払いが特に困難でない人は利用できないので注意する必要があります。
さらに負担が軽くなる高額療養費制度の特例
高額療養費制度では、この制度を利用することにより自己負担する医療費を軽減できます。
しかし「世帯合算」や「多数該当」といった仕組みにより、さらに最終的な負担額を軽減することもできます。
世帯合算
世帯合算とは、1人の1回分の窓口負担では高額療養費の支給対象とはならなくても複数の受診や同じ世帯にいる他の方(同じ医療保険に加入しているる方に限る)の受診について医療機関の窓口でそれぞれ支払いをした自己負担額を1カ月単位で合算することができます。合算した額が一定額を超えた場合には、超えた分が高額療養費として支給されます。
※この場合の世帯とは住民票上の世帯とは異なり、同じ医療保険に加入している家族のことをいいます。
※70歳未満の方の場合は、自己負担額が2万1千円を超えた場合に限り合算できます。
自分自身が負担した医療費では、高額療養費制度の基準額に満たなかった方も、同じ世帯に医療費を負担している家族はいないか確認してみると良いでしょう。
多数該当
多数該当とは直近12カ月以内にすでに3回以上高額療養費制度を利用している人の自己負担限度額が4回目からさらに引き下げられる特例です。

たとえば
69歳以下で年収400万円の方(区分ウ)が高額療養費制度を直近12カ月以内に4回利用した場合。
※1回の総医療費を30万円と仮定

上記のとおり高額療養費制度を複数回利用した場合、4回目からは自己負担限度額がさらに引き下がります。
次に、70歳以上の方が多数該当した場合の自己負担額です。

1年の間に何度か高額療養費制度を利用している場合は多数該当が適用されるかどうか確認してみましょう。
高額療養費には時効がある
高額療養費の支給を受ける権利には時効があります。
診療を受けた月の翌月の初日から2年で時効となります。
したがって、この2年間の消滅時効にかかっていない高額療養費であれば、過去にさかのぼって支給申請することができます。
今一度、過去2年間に高額療養費に該当する治療を受けていないか確認してみてはいかがでしょうか。

まとめ
いかがだったでしょうか。
高額療養費制度は、重い病気やケガで医療費が高額になった場合、自己負担限度額を超えた超過部分を払い戻してくれる制度です。
そのため、この高額療養制度を使うことで誰でも医療費を安く抑えることができます。高額療養費制度の存在を知らずに、それでカバーできるはずの医療費を自己負担してしまうのは本当にもったないことです。
重い病気やケガで医療費が高額になった場合は、忘れずに高額療養制度の申請を行いましょう。